「Windows 10はESUで延命した。Officeは買い切りだから問題ない。サーバーも動いている」——そう整理して、いったん安心されていませんか。実は、その3つがすべて2026年10月13日に期限を迎えます。Office LTSC 2021のサポート終了、Windows Server 2012/2012 R2のESU(延長セキュリティ更新)完全終了、そしてWindows 10法人向けESUのYear 1終了。偶然ではなく、マイクロソフトのライフサイクルが同じ日に重なった結果です。さらにやや厄介なのが、個人向けWindows 10のESUだけが2027年10月12日まで延長されたことです。この情報が混ざって流通しているため、「うちも2027年まで大丈夫」と誤解したまま10月を迎える企業が出かねません。本記事では、10月13日に何がどう終わるのかを正確に切り分け、残り約2か月で現実的に間に合わせる進め方を整理します。1. 2026年10月13日に何が終わるのかまず、終わるものを3つに分けて確認します。影響の性質がそれぞれ違うため、まとめて考えると判断を誤ります。1.1. Office LTSC 2021——延命の選択肢がない終了Office LTSC 2021(買い切り型の法人向けOffice。永続ライセンス版)は、2026年10月13日にサポートが終了します。この日以降、技術サポート、不具合修正、そしてセキュリティ更新のすべてが提供されなくなります。ここで最も重要な事実は、Windows 10のように費用を払って延命するESUの選択肢が用意されていないことです。Windows 10は「お金で時間を買う」ことができました。Officeにその道はありません。10月13日を過ぎた瞬間から、WordやExcelの脆弱性は修正されないまま残り続けます。マイクロソフトが案内している移行先は、クラウド版のMicrosoft 365 Apps、またはオンプレミス運用を続ける場合のOffice LTSC 2024の2つです。なぜこれが軽視されがちなのでしょうか。理由は、Officeが「動き続ける」からです。サポートが切れてもアプリは起動し、ファイルも開けます。目に見える変化が起きないため、危機として認識されません。しかし実務上のリスクは明確で、悪意あるファイルを開いた際の防御が失われ、取引先のセキュリティチェックシートで「サポート切れソフトの使用」として指摘対象になります。動くかどうかではなく、更新が出るかどうかが判断基準です。1.2. Windows Server 2012/R2——ESU3年が完全に切れる日Windows Server 2012および2012 R2は、延長サポートが2023年10月10日に終了し、その後はESUで3年間つないできました。そのESUの最終年(Year 3)が終わるのが2026年10月13日です。つまりこちらは「次の延命策」がありません。ESUという仕組み自体が終了するため、以降はどのような契約形態でも更新プログラムは提供されません。注意していただきたいのは、Azure上で動かしている場合も同じだという点です。Azure環境ではESUが追加費用なしで適用されるケースがありますが、それはESU期間内の話です。期間そのものが終わる10月13日以降は、クラウド上のサーバーであっても更新は出ません。実務で問題になりやすいのは、こうしたサーバーが「誰も触っていないのに止まっていない」状態で残っていることです。例えば、ファイルサーバー、社内の古い業務システム、複合機のスキャン保存先、ライセンス認証用のサーバーなどが典型です。使われていないと思っていた1台が、実は特定部門の月次処理に組み込まれていた、というケースは珍しくありません。だからこそ、次章で触れる棚卸しが最初の一手になります。1.3. Windows 10法人向けESU——Year 1終了と、価格が2倍になる分岐点3つ目はWindows 10です。Windows 10本体のサポートは2025年10月14日に終了しており、法人はESUで延命できます。その提供期間はYear 1が2026年10月13日まで、Year 2が2027年10月12日まで、Year 3が2028年10月10日までの最大3年間です。ポイントは価格設計です。ESUは1台あたりYear 1が61米ドル、Year 2が122米ドル、Year 3が244米ドルと、毎年倍増していきます。しかも1年単位での購入となり、期中の部分購入はできません。対象エディションはEnterprise、Education、および商用利用のProです。100台規模ならYear 2は年間1万2,200米ドル相当となり、移行費用との比較が必須になります。なお、Windows 365、Azure Virtual Desktop、Azure上の仮想マシンなどでWindows 10を動かしている場合は、ESUが追加費用なしで適用されます。仮想デスクトップ環境を持っている企業は、この差を把握しているだけで判断が変わります。10月13日は「Year 1が切れる日」であり、Year 2を買うか移行を完了させるかを決める分岐点です。2. 「2027年まで延長」を自社に当てはめないここが本記事で最も注意していただきたい部分です。情報が混在しているため、対象を取り違えると対策そのものがずれます。2.1. 延長されたのは個人向けだけ、という決定的な違い個人向けのWindows 10 ESUは、当初1年間の提供とされていましたが、2027年10月12日まで延長されました。ニュースやSNSで「Windows 10は2027年まで大丈夫」という情報を目にした場合、その出典はほぼこれです。しかし、これは個人(コンシューマー)向けプログラムの話です。法人が業務端末で使う場合はボリュームライセンス経由の商用ESUが対象となり、Year 1の期限は2026年10月13日のまま変わりません。同じ「Windows 10のESU」という言葉が、対象者によってまったく違う期限を指しているのが混乱の原因です。実務上の対策はシンプルです。自社が加入しているのがどちらのプログラムなのかを、契約書か購買履歴で確認してください。ボリュームライセンスやCSP(クラウドソリューションプロバイダー)経由で購入していれば商用ESUです。個人向けの手続きで端末ごとに登録した記憶がないのであれば、まず商用ESUだと考えて問題ありません。曖昧なまま「たしか2027年まで」と記憶で運用するのが、いちばん危険な状態です。2.2. Microsoft 365 Appsは2028年まで——ただし条件付きもう一つ、誤解が生まれやすい点があります。Windows 10上のMicrosoft 365 Appsについては、Windows 10のサポート終了から3年間、つまり2028年10月10日までセキュリティ更新が提供されます。「Officeは2028年まで平気」と言われるのはこの根拠です。ただし、提供されるのはセキュリティ更新だけで、新機能やその他のサポートは対象外です。加えて、OneDriveデスクトップアプリの更新はWindows 10 version 22H2で2028年10月10日までとされており、それより古いWindows 10を使っている場合は2026年8月15日以降、更新を受け取れなくなります。この日付は本記事公開時点で目前です。整理すると、OS本体・Office・クラウド同期アプリで期限がそれぞれ異なり、しかも「どのバージョンのWindows 10か」で結論が変わります。だからこそ、製品単位ではなく端末単位で把握する必要があります。3. 残り2か月で間に合わせる3ステップここからは実務手順です。全台のWindows 11移行を10月までに完了させるのは現実的ではありません。優先順位をつけて、危険な部分から順に消していきます。3.1. ステップ1:3日で終わる資産棚卸し最初にやるべきは、完璧な台帳づくりではなく「期限に触れる資産だけの洗い出し」です。対象は3種類に限定します。Officeの永続ライセンス版が入った端末、Windows 10のまま残っている端末、そしてWindows Server 2012/2012 R2で動いているサーバーです。集め方は、既存の情報源を組み合わせるのが最短です。ライセンス購買記録、資産管理ツールの出力、Active Directoryのコンピューター一覧、そして現場へのヒアリング。この4つを突き合わせれば、数日で輪郭は掴めます。台数が数十台規模であれば、スプレッドシート1枚で足ります。列は「端末名/利用部門/OSとバージョン/Officeの種類/10月13日以降の状態」の5つに絞ってください。意外なことに、この作業でいちばん見つかるのは端末ではなくサーバーです。担当者が退職して以来誰も棚卸ししていない1台、検証用に立てたまま本番運用に組み込まれた1台といった存在が、ここで初めて可視化されます。棚卸しの目的は数を数えることではなく、「知らなかった資産をゼロにすること」です。3.2. ステップ2:業務停止リスクで仕分ける洗い出した資産は、台数の多さではなく止まったときの影響で優先順位をつけます。基準は3つです。インターネットに接するか、社外とファイルをやり取りするか、業務が止まるとその日の売上や納品に直結するか。この基準で並べると、対応順序が自然に決まります。最優先はメール添付や取引先ファイルを日常的に開く端末のOffice、次にインターネットに接するサーバー、その次に社内限定で使っている端末です。逆に、ネットワークから切り離された製造ラインの制御端末などは、リスクを文書化した上で移行を後回しにする判断も成立します。ここで大切なのは、後回しにした判断を記録に残すことです。「10月13日時点で未移行の資産と、その理由、代替の防御策、移行予定時期」を1枚にまとめておけば、監査や取引先からの照会に耐えられます。すべてを期限内に終えられなくても、把握して管理している状態であれば説明責任は果たせます。何も残っていない状態こそが最大のリスクです。3.3. ステップ3:移行先を決める移行先の選択肢は大きく4つです。それぞれ向く条件が違います。Officeについては、クラウド前提で運用を統一するならMicrosoft 365 Apps、オンプレミスの買い切り運用を続ける必要があるならOffice LTSC 2024が基本線です。ただし、コスト構造を見直す好機と捉えるなら、Google Workspaceを含めた比較を行う価値があります。買い切りからサブスクリプションへ移る局面は、ライセンス体系そのものを再設計できるタイミングでもあるためです。判断材料は、既存ファイルの互換性要件、社外とのやり取り形式、そして情報システム部門の運用工数です。Windows 10端末については、Windows 11の要件を満たすなら移行を進め、満たさない端末は買い替えかESU Year 2の購入を比較します。単価122米ドルが1年分の延命コストであることを踏まえれば、端末の残存年数次第で買い替えのほうが有利になるケースは多くあります。サーバーについては、Windows Server 2022/2025への移行か、役割そのものの解体が選択肢です。ファイル共有ならクラウドストレージへ、認証や小規模な社内システムならSaaSへ置き換えることで、サーバー自体を持たない構成に寄せられます。期限対応をきっかけに台数を減らせれば、次のライフサイクル対応の負担も同時に軽くなります。まとめ2026年10月13日は、Office LTSC 2021のサポート終了、Windows Server 2012/R2のESU完全終了、Windows 10法人向けESU Year 1終了が重なる日です。特にOfficeとサーバーは延命策そのものが存在せず、その日を境に更新が止まります。そして「Windows 10は2027年まで」という情報は個人向けの話であり、法人には当てはまりません。まずは自社が加入しているESUがどちらなのかを契約書で確認することが、すべての出発点になります。今週の第一歩として、Officeの永続ライセンス版が入った端末とWindows Server 2012/R2のサーバーを、スプレッドシート1枚に書き出してみてください。行数が想像より多ければ、それが今すぐ動くべき理由です。出典:Microsoft「Office LTSC 2021 reaching end of support on October 13, 2026」、Microsoft Learn「Extended Security Updates(Windows 10/Windows Server 2012 R2 ライフサイクル)」、Microsoft「Windows 10 Consumer Extended Security Updates」、Microsoft「What Windows end of support means for Office and Microsoft 365」(いずれも2026年8月時点)